野生動物から見えてくる人間社会

今月9日、府中で「自然からのメッセージ 動物たちから学ぶ」と題した講演会があった。自然界の報道写真家・宮崎学さんの講演だ。

この宮崎さん、「宮崎 学(まなぶ)」という同姓同名(読み方も一緒)の作家がいるため、いろいろと困っていらっしゃるそうで、その方との区別してもらうため、これからは「みやざき・がく」と呼んでほしいとおっしゃっていた。ただ、これまで何冊も(みやざき・まなぶ)で本を出されているので、そのコードは変えられないため、登録名のよみがなは変えられないのだそうだ。そんなわけで、当分、「みやざき・まなぶ」と「みやざき・がく」の2本立てでいくらしい。講演の最初に、そんな話をされていた。

さて、宮崎さんの講演のなかで、心に残ったひと言がある。
人間も野生動物の一種である。
この言葉の意味は極めて大きい、と思う。食生活はその国の文化と深く関わり、長い伝統がある。人もこの地球上で暮らす“野生動物の一種”と考えるなら、クジラやイルカを日本人が食すことに世界的な動物愛護団体が、なんやかや言ったとしても、そんなことは聞かなくてよろしい、ということだ。なにも、クジラやイルカを絶滅させているわけではないのだから。

日頃から宮崎さんは、自然環境の保護と利用について次のように述べている。
自然保護とか環境問題はいかにして環境保全をし、増やし育てていきながら自然を利用していくかというところに、ほんとうの自然環境理解が生まれるのではないかとボクは信じている。
宮崎さんのこの言葉は、生態系管理の本質をついている、と思う。

今、全国各地でイノシシやシカが増え、農業被害が後を絶たない。その原因の一つが、積雪や凍結防止のためにまく塩化カルシウムなのだという。そして、最近は不要になった漁業の網が、シカが道路に出て来るのをを防ぐための網として再利用されているそうで、これも原因のひとつだと、その網を舐めているシカの写真を見せながら、宮崎さんは持論を展開して行った。

動物が生きていくために、塩分は欠かせない。リサイクルされた漁業の網は、長い間、海に浸されて塩分を含んでいる。シカたちは、塩分を含んだこの網に大喜び、というわけだ。冬期に道路の凍結を防ぐために撒かれる塩化カルシウム、そして、リサイクルされた漁業の網は、周辺に棲む動物たちを、強く、元気にさせているという。弱った動物に塩分を与えると、元気を取り戻すそうだ。そう考えれば、塩化カルシウム撒くことや漁業網を張ることは、動物たちに“サプリメントを与えているようなもの”だ、と。

そして、もう一つの原因は、犬の放し飼いを止めたこと。昔から日本各地で飼われていた日本犬は、地域を守ってもいた。放し飼いにされていた犬たちは、サルやクマといった野生動物が出没したりすることを防ぐ役目を担っていたのだ。明治の頃までは、地方では犬の放し飼いは当たり前だった。それが、ペットとして犬が多く飼われるようになると、鎖で繋がなければいけないようになってしまった。そういったことが長く続くようになって、野生動物が里へ降りて来るようになってしまったというのだ。もちろん、地域の高齢化、過疎化も原因になっている。それら複合的な原因が重なり、今に至っているというのだ。

なるほど、頷けることばかり。宮崎さんのひと言、ひと言は、自らの脚で全国のフィールドに飛び、五感で感じ、調べ、観察し、行動して来たことによる裏付けがあり、説得力がある。たくさんの写真を見せながらそんなことを語り、ユーモアも交え、随所で笑わせてくれた講演会だった。宮崎さんの講演を初めて聴いた人たちは、きっと目からウロコ…なことがたくさんあったことだろう。

野生動物の立場から見た宮崎さんの言葉は、現在社会のさまざまなひずみを見事にあぶり出す。

「写真は視覚言語。写真から、それらを読み取ってほしい」

と語る宮崎さん。当日は、その宮崎さんの著作本『ツキノワグマ』が、会場に入るなり、なんと、無料で配られた。普通、講演会が終わると、その登壇者の著作本を出口で販売していたりするものだが、このご時世に、なんと太っ腹な…
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不況とはいっても、大企業はまだまだ余裕があるということか。入場者全員にこの本を配布したのは、主催した東芝ソリューションという会社。「東芝」という企業が、これほどまでに環境問題に力を入れているとは知らなかった。こういった講演会を開き、企業として社会貢献を行う姿勢に好感を持った。講演が始まる前に社長さんがあいさつをされたが、司会の方とともに、長年、自然界を通して環境問題を報道してきた写真家に対して、最大限に敬意を表した紹介の仕方だった。

素晴らしい講演に、最後は満場の拍手。わたしはスタンディングオベーションしたいくらいだった。本当に足を運んでよかったと思える講演会だった。
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宮崎さん曰く、「野生動物を観察していると、人間社会が見えてくる」。それが端的に現された本が新刊の写真集『カラスのお宅拝見!』(写真:右)だろう。カラスを通して見えてくる現代の人間社会。この写真集のなかには、どのような“視覚言語”が詰まっているのか、今から楽しみである。

 =この本を読んだら、アナタもきっと、カラスを好きになる。=

これは宮崎さんの講演が終わった後に、この本を紹介した司会の方が結んだ言葉だ。
『カラスのお宅拝見!』必見である。
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[写真:会場となった府中駅北口・けやきホール入り口/GX200/2009年12月9日撮影]
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by osanpocamera | 2009-12-15 23:01 | 自然 | Comments(0)